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じんじ屋エールは自由設計が基本コンセプト。

じんじ屋エール

since1995

短編小説 新賞与配分導入物語

作成年:2023

21年ぶりの書き下ろしです。でも物語の中では2年半しか経過していません。
プロコンサルタントの方は、ご笑覧ください。
経営者・管理者の方は、賞与配分方法見直しの参考にしてください。
なお、特定の設計手法にフォーカスを当ててる感がありますが、短編小説の枠内で説明しようと頑張った結果であります。まあ物語ですから突っ込み厳禁でお願いしますネ。

この物語は、エール博士の甥が経営する会社(株式会社エール技研)をモデルにしたものである。

プロローグ

外に出てみると、春の息吹を感じる暖かな日差しが心地よい。しかし、山田太郎の胸には冷たい風が吹きつけていた。

太郎が経営する株式会社エール技研は研究開発型の会社である。社員の数は、役員2名、正社員31名、パートタイマー7名、総勢40名である(2年半前は37名、5年前は23名だった)。

会社の業績はどうなのかと言うと…増収増益で浮かれていたのは2年前までである。
その後は利益こそ出ているものの今後の成長には陰りが見えている。

第1章 社員たちのモチベーション

かつてエール技研の賞与はスズメの涙ほどであった。
それが人事制度を導入してから世間並みの金額を支給できるようになっていた。
支給額が増えれば社員は満足すると思っていたが、どうやら新たな不満を感じ始めているようだ。

「賞与の金額は、何を根拠に決めてるのかしら」
「俺の賞与、頑張ったわりに低くね?」

エール技研の給与は「等級制度」によるもので、年功的要素を含みながらも評価により昇給や昇格を決定している。しかし、賞与はあいかわらず太郎の独断で決めていた。

「またガイド君かびょん太先生にコンサルをお願いするしかないな」
太郎はエール博士に相談しに行くのだが・・・。


第2章 アルバイトのリンク

太郎は、過去何度かの経緯から偏屈なエール博士の扱いには慣れていた。
いきなり追い返されることがないように、手土産に持ってきた生姜のドライフルーツをエサに、エール博士にお願いをしてみた。
「今回もびょん太先生かガイド君にコンサルをお願いしたいのですが」
「すまんがびょん太とガイド君は忙しくて3か月先まで空いておらんのじゃ。代わりといっては何だが、ガイド君の妹のリンクではどうじゃろ」

リンクは、薬学部の大学院に通っている学生である。
‘リンクってアルバイトだよな。しかも畑違いだし’と口から出そうになったが、エール博士も建設技術者からの転身だったことを思い出して‘まっ、いっか。リケ女だから数字に強そうだし’と納得してしまった太郎だった。

「いつからリンクさんをお借りできるのですか?」
「今からでもいいぞ。隣の部屋にいるから呼んできてやる」

リンクとは初のご対面である。
リンクは(ビジュアルが)とても魅力的な女性である。
「私、いま博士課程に通ってて、将来は研究職に就きたいのです。研究成果に応じた報酬が得られる企業に就職したいと考えています。だから賞与の配分方法にはとても興味を持ってますわ。微力ですが、少しでもお役に立てれば嬉しいです。」
‘かっ、かわいい’
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
ガイド君とびょん太が忙しくて本当に良かったと思う太郎だった。

第3章 賞与配分の設計その1

エール技研の給与は、評価制度とリンクしたもので、ちゃんと機能している。

賃金制度を導入したときには、太郎はこんなことを言っていた。
「毎月の賃金だけいじってもあまり効果はないから、いっしょに人事考課制度も導入しようと思うんだ。それとボーナスでもうんと差がつくようにしたいね」

賞与の現状はというと、評価結果を参考にしてはいるものの「社員にとって不満だらけの賞与配分」なのだ。それは確定前の賞与額(機械的に計算して出た金額)を「実績と金額のバランス」が取れていないことを理由に、太郎の独断でいじり始めてしまったことが原因である。

リンクから太郎へのヒアリングが始まった。
「現在の賞与配分方法は、基本給×支給月数で評価に応じて差がつく仕組みですよね?」
「そうそう」
「給与の評価結果をそのまま使っているのですよね?」
「そうそう」
「それを社長さんが、かなり適当に金額を直してしまっている?」
「そうそう、じゃないよっ。うぅぅ、それを否定できない自分がいる」
「気になさらないで。いま確認したことを改善することで、社員の不満を和らげることができると思いますよ」
「それは期待しちゃうな」

そして、2人は賞与配分の設計に入っていった。
「どのような設計方法にしましょうか?」
「少なくとも今の基本給×支給月数は変えたいね」
「現在の賞与は、正確に言うと基本給×評価別の支給月数で算出した金額に社長さんが大幅に手を加えたものです。まずは基本給の部分をどうするか考えてみましょう」
「基本給ってさ、同じ等級でも号俸が違うと金額に差があるじゃない。賞与もそれを引きずっちゃってる。そこを何とかしたいなぁ」
「同一等級なら原則として同じ賞与額にしたいのですね。それなら、基本給の代わりに全員同額の基礎額を設定して、それに(等級別に定める)等級係数を乗じる形をとりましょう」
「ほう、シンプルでいいな、それ」
「次に評価別の支給月数をどうするか考えてみたいと思います」
「そこは、そのままでいいんじゃない」
「とりあえず基本給とは切り離しますので、支給月数を支給係数に改めましょう。それと、評価は別立てで評価係数として設定しておきましょうか。この部分は評価係数×支給係数になります」
「なぜ別に分けるんだい?」
「そのほうが運用時に楽そうだからです。もし、支給係数を変えたくなったときに、それが評価別になっていると評語の数だけ変更する必要がありますので。まあ、微々たる手間ですけど」
「なるほど」
「以上の設定によって、賞与配分のはこのような式になります」

 基礎額(一律金額)×等級係数×評価係数×支給係数

「そして、算出した金額に僕が手を加えて完了!」
「手を加えて?それはあまり推奨しません。それをやり過ぎると、どんな仕組みを作ってもぶち壊しですよ」
「じゃあ、どうしろって言うの?」
「社長さんが懸念する実績と金額のバランスは、基本給と切り離したことである程度均衡を図ることができるかもしれません。それと、昇給と賞与の評価は別に行うことも検討します。あとは評価係数の設定次第で、最適な賞与配分の仕組みが完成するのではないでしょうか」
「昇給と賞与の評価は別に行うのは面倒だなぁ」
「実際の評価は、夏と冬の賞与2回でかまいません。その2回分を加工して昇給の評価とするので
す。各評価項目のウエイトを変えることで、実績の部分を重視した評価結果となります。」
そして、リンクは続けて、
「例えば、実績評価と行動評価の2つとします。賞与では70・30(合計100)」のウエイト付けをしていますが、昇給では「40・60」にウエイトを変えます」
「でも昇給のほうは上手くいってるんだよ。賞与のウエイト付けで昇給の評価がおかしくなってしまわないかい?」
「それは大丈夫です。現在の「昇給のウエイト」が変わらないように、逆算して「賞与のウエイト」を設定しましょう」
「ほう、それはいい考えだね」
太郎は、まだ理解していない部分もあったが分かったフリをした。リンクの前で理解力の乏しさを露呈するのが嫌だったのである。
リンクは説明を続けた。
「あと付け足すとすれば、他に乗じる係数(役職係数、出勤係数、在籍係数など)を設定したり、通常計算による賞与では対応できない部分について特別加算金という形で上乗せ支給することも検討事項となります」
ここで特別加算金という言葉に太郎は食い付いた。
「手を加えられるのは特別加算金だけか。加算があるなら、特別減算金ってのもあり?」
「なしです。補足ですが、制裁としての賞与の減給は別に考えてくださいネ」

第4章 賞与配分の設計その2

太郎は、まだリンクが出し惜しみをしているような気がしていた。
「ほかにも何か良い方法ってないの?」
「先程までお話しをしていたのは個人別にそれぞれの賞与を決定するやり方です。似て非なるものとして、予算に合わせて配分する総額配分という方法があります」
「なぜそれを最初に言ってくれなかったの?」
「それは、基礎額や係数の考え方をご理解いただいた後でないと説明が難しかったからです。これから話すつもりたったのですよ」
リンクは続けて説明に入った。
「総額配分方式の計算式は、基礎額(一律金額)×等級係数×評価係数までは一緒ですが、支給係数はありません」
「支給係数が無いってことは、賞与額の水準が毎回変わらないってことだよね。それはオカシイだろ」
「そういう意味ではありませんわ。支給係数が無くても、予算に合わせて自動的に決まる仕組みなのです。予算が多ければ賞与の平均支給額は高くなり、逆に予算が少なければ“それなりに”という具合です」
「ほう、“それなりに”というのが気に入ったな」
この言動は、リンクに無視された。
リンクが口をつぐんでしまったため、次の一言を太郎から切り出した。
「これですべてと考えていいかな?」
「いいと思います。それぞれの方式は単独でも使えますし、組み合わせて使いこともできます。
いずれにしても、予算に合わせて配分する総額配分方式を組み込めば予算管理がし易いでーす」

リンクと会話した時間は(リンクがどう思っていようが)太郎にとって至福のひとときであった。

エピローグ

社長室で、太郎は専務の花子とコーヒーを飲みながらくつろいでいた。
「総額配分方式は気に入ったね。予算を決めておけば、ほぼ自動で対象者全員の賞与が決まるんだ。自分で手を加えられない寂しさは残るけど、なんたって楽ちんだわさ」
花子の前だけで言える太郎の本音の一言、いや、二言であった。
「社員にとっても、ちゃんと算出根拠が示されていれば納得性は高いと思うわ」
花子も賛成してくれた。

その頃、エール研究所では、エール博士とリンクとの間でこんな会話が。
「実は、太郎がリンクの仕事ぶりをえらく気に入ってのぅ。ぜひエール技研に研究者として就職して欲しいそうじゃ。一度考えてみてくれんかのぅ」
「嫌です。ぜんぜん畑違いですよー。それと、今回の仕事で感じたのですが、エール研究所のアルバイトのほうがやりがいがありそうです」
「そっかそっか、やはり儂のそばがいいか」
勘違い甚だしいエール博士、凄春はまだまだ続く80歳の春であった。


<参考> ダウンロードページの「賞与配分計算」
    個人別計算と総額配分について簡単なシミュレーションができます。


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